B:商隊の襲撃者 テクスタ
テイルフェザーの猟師たちの頭を悩ませる、一頭のバンダースナッチが「リスキーモブ」に指定された。
「テクスタ」という名が付けられたコイツは、皇都との間を行き来する商隊を、何度も襲撃していてな。生活物資を運び、商品となるチョコボを皇都に送る……
この商隊の流れが止まれば、テイルフェザーは干上がってしまう。早急に狩らなければならないだろう。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「くそっ!!どっから入り込んだんだ!」
叫び声のする方へ全力で走りながら考えていた。入り込む隙などなかったはずだ。
数十メートルの断崖絶壁の谷合にあるこの町に出入口は二つ。南の入り口にはこの町の規模には不釣り合いな堅牢な大門がありその扉はしっかり閉められているのをこの目で確認した。もう一つの出入り口には忍び返しのように村の外に向かって反り返った丈夫なバリケードを築いて、各々の出入り口には5人の見張りまでつけた。何故入れた?くそっ、考えたってもう遅い。既に入り込まれてるんだ、対策を考えないと…。
このテイルフェザーの町はイシュガルド皇都に商品であるチョコボを納品することで生計を立てている小さな町だ。近くにあるチョコボの森で野生のチョコボを捕獲し、掛け合わせて育て、それをイシュガルド皇都に運び、生活用品や糧を得て細々と暮らす。だがこいつのせいでこの一年まともな納品が出来ていない。「テクスタ」と名付けたパンダースナッチだ。
パンダースナッチは獅子のような見た目の肉食の魔獣なのだが、このテクスタは通常種に比べ1.5倍ほど体躯が大きく、とにかく頭がいい。どのくらい頭が良いかというと、例えば月に一回行われるテイルフェザーからイシュガルドへの納品の日時や複数ある通行ルートを完全に記憶していて、毎回商品を積んだ商隊を襲ってくる。当然俺たちもルートを複雑に変更したり、罠を仕掛けたり、囮を放ったりと対策を講じてきたが全く効果がない。イシュガルドへ納品する商品以外には興味がないかのように執拗に商隊だけを的確に狙ってくる。
テイルフェザーのチョコボと言えばエオルゼア全土に名が轟くほどの名産品でイシュガルド教皇庁も重要な産業だと認識してくれているが故に事情を斟酌して援助や取引の継続をしてくれているが、それももう限界だ。今回は必ず納品を成功させなければ取引が打ち切られ、町として立ち行かなくなるところまで来ている。だからこそ今回は明日の商隊の出発に備え万全を期したのだ。
「くそっ、くそっ、くそぉ」
俺は何度も吐き捨てながら走った。町の北側に人だかりが見えてきた。皆手に得物を持ってテクスタを囲んでいる。俺は人を掻き分け前に出た。
町を縦断する川の中ほどに全身から湯気を立たせながら立っているずぶ濡れのテクスタの姿があった。
「まさか…川か…」
俺は絶句した。
この川は町の遥か北にある大滝から流れてくる川で川幅は狭く、大きな川ではないが水量は多く、流れも速い。川は町を囲む防護壁の下をくぐり町の中を流れていく。防護壁の下の部分には古い鉄製の柵がいくつか取り付けてはある。老朽化は進んでいるものの進入路として考えにくいので特に補強もしていなかった。こいつは完全に水没しているその水のトンネルを、柵を破壊して入ってきたというのか…。俺は敗北感のようなものを感じた。
テクスタは武器を手に取り囲む者たちを唸りながら見渡した。まるで「どけ」と言っているかのようだ。
唸り声を漏らしながら俺の方にゆっくりゆっくりにじり寄ってきた。こんな魔獣とどう戦えばいいというのか。
恐怖に飲まれそうになった俺は自分を奮い立たせようと叫んだ。
「くっそぉおおおおお!!」
それとほぼ同時にテクスタが川底を蹴って俺に向かって飛び掛かる。鋭い爪の生えた前足が俺の首を跳ね飛ばそうと迫る。
その瞬間、目の前を大きな炎の壁のようなものがテクスタもろとも通り過ぎ、ぎゃわわわあああ!とテクスタが悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、地面の上をゴロゴロと転がった。
「間に合ったみたいね!」
炎の飛んできた方向を見ると小屋の屋根の上から杖を持った魔女が言った。それとほぼ同時に女剣士がサッと俺とテクスタの間に割って入る。
「クラン・セントリオに依頼をくれたのはあなた?」
女剣士が聞く。助かった、とほっとする思いと同時に僅かに怒りが湧いてくる。
「遅いじゃねーか!」
俺がそう叫ぶと魔女はシレッとして言った。
「そう?ヒーローが現れるタイミングとしては完璧じゃない?」